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・湖山池塩水化事業による湖山池生態系の変化の現状 ('13/02/06)(注:この記事は支部サイトの「新着情報」の記事の転載です。)

 ご承知のように昨年から湖山池の水質改善を目的とする鳥取県による塩水導入事業が開始されました。この事業の結果、湖山池の水質は著しく変化しており、従来我々が親しんできた湖山池の生物種の多くが姿を消し、今まで見たこともないような生物種が池を占有する事態となっています。全ての状況を調べてお知らせする能力は私には到底ありませんが、私が見聞きした範囲での変化について簡単に報告します。

 @植生
 私自身は昨夏までほとんど鳥取を離れていたのでその変化を把握していませんでしたが、昨年八月に久しぶりに池のそばに立ってみて実に驚きました。池の岸沿いに生えているヨシが一斉に枯れて茶色くなっているのです。池をぐるりと回ってみると、水中から生えているヨシやガマはすでに枯れているか、著しく生育不良となっていました。
 今回の塩水導入の目的はヒシやアオコを減らし水質改善することにあるとは聞いていた。確かにヒシやアオコは姿を消したが、水質浄化の働きが大とされているヨシ原まで枯らしてしまうとは・・。 隣の島根県の宍道湖での活動に代表されるように、全国各地では水質改善のために多くの市民が自発的に湖岸にヨシを植えるボランティア活動をやっているというのに・・・。いったい鳥取県は何を考えているのだろう? 湖面を吹き渡って来る風の匂いを嗅ぐと潮の香りがした。知らぬ間に湖山池を海に変えられてしまった。

 
              全滅した湖山池東北部湖岸のヨシ原の跡(2012/09/27撮影)  
 この場所は、前年までは湖岸から40〜50mの沖までヨシ原が広がっていて(沖合に見える水面からわずかに出ている枯草はその当時のヨシ原の最先端部の残骸)、カイツブリなどの水鳥の繁殖地となっていた。また、過去には秋冬にはシマアジやヨシガモなど希少なカモ類が飛来していた場所でもある。カモたちが天敵のワシやタカから身を隠すための絶好の隠れ家になっていた。今年度の塩分導入でヨシ原は全滅、今では何もない水面(海面?)となってしまった。

 
                    湖山池東部の湖岸の様子(2012/09/27撮影)
 右側の水面から突き出ている枯草は、この年の春にいったん芽吹いたものの高塩分のために枯れてしまったガマの残骸である。左側の水面から出ているヨシの株も、ほとんど枯れてしまって倒れる寸前。

 A野鳥
 夏に湖山池の水面を利用して繁殖する野鳥としてはカイツブリがあげられます。ヨシの茎などを利用して水面にいわゆる浮巣を作るが、ヨシ原が消えてしまったので昨年春から夏にかけての湖山池のカイツブリの数はほとんどゼロだったとのこと(私は不在だったので当支部メンバーに聞いた話)。
 池に一年中いてよく目立つ鳥としては魚を捕食するミサゴが代表的です。ミサゴは三十年ほど前は農薬汚染の影響で絶滅が心配されるほど減少していたが、近年は数が増え湖山池に行って双眼鏡で探せば必ずどこかの湖面上を飛んでいるのが見えるほど普通の鳥になりました。この冬もミサゴの密度には変わりがないようで、ほぼ常時水面上を飛んでいる姿が見られます。ただし、獲物とする魚は最近大きく変わったようです。ミサゴがとらえて脚につかんで運んでいる魚を観察すると、体高が低くて細長い魚ばかり(多分、セイゴかボラ)。以前のように、体高の高いフナやコイをつかんでいることはなくなりました。池の表層を泳ぐ魚の種類が全く変わってしまったようです。冬になって、魚が主食のオオワシやオジロワシも例年通りやってきているので、大型の魚については種類は変わったもののその生息密度は大きくは変化していないようです。
 池で越冬するカモ類については数は以前よりも増加傾向。特にホシハジロやキンクロハジロなどの潜水ガモが増加しています。また昨冬までは、ホシハジロは二百羽程度の群れを作って昼間は水面で寝ていることが多かったが、今年の冬は朝から湖面のあちこちで十羽程度の小グループで盛んに潜って何かを採食している。ホシハジロは底生の貝類を食べるとされているので、種類はわからないが貝類の総量が増えているようです。

 B魚類・貝類
 湖山池の急激な環境変化を最も端的に示しているのは、池に生息する魚類の種類の交代です。
 私は去年の八月末に池南岸のレーク大樹付近でフナの大量死を確認しました。レーク大樹周辺の湖岸、少なくとも長さ数百mに渡って無数のフナの死骸が岸に打ち上げられていました。みな体長30cm程度はありそうな立派なヘラブナ(別名 ゲンゴロウブナ)ばかりで、ざっと見た所、ゆうに千は超える数でした。 湖山池の魚に詳しい方に確認したらフナの中ではヘラブナが一番塩分耐性が弱い魚とのこと。またヘラブナは湖山池の魚の中では一番市場価値の高い魚(だった・・・)とのこと。


      打ち上げられたヘラブナの死骸(2012/08/25)              波間でまだ息をしている瀕死のヘラブナ(2012/08/25)

 これらのフナたちは、いったい誰のせいでこんな死に方をする羽目になったのでしょうか。

 その後、去年の十一月に再びレーク大樹周辺を訪れてみました。この時は、すぐ近くの長柄川(湖山池に流れ込む川の中で最も流量の多い川)の河口付近に、大阪周辺ナンバーを付けた車でやって来たヘラブナ釣り師たちが陣取っていました。彼らは嬉々として次々にヘラブナを釣りあげ興奮状態です。池の塩分濃度が高くなり過ぎて生きることができず、やっとのことでこの川に付近に避難してかろうじて生き延びているヘラブナの密度は異常に高く、肉眼でもフナの密集した群れが遊泳しているのが良く見えました。この場所を聞きつけわざわざ大阪からやって来て、食べるものもなくて痩せ細り飢えきったフナを「入れ食い」だと言って釣りあげてよろこんでいる人々。実に血も涙もないバチあたりな連中だと思いました。
 私自身は確認していないのですが、魚の大量死の別の例としては、去年の夏から秋にかけてコノシロの大量の死骸が池の南岸に打ち上げられていたそうです(当支部会員の話)。コノシロという魚は従来は賀露の港でしか釣れない魚だったのだが・・。去年の夏の終わりには湖山池の水はほとんど海水と同じになっていたようです。
 この記事を書いている途中で、「いったい淡水魚はどの程度の高塩分に耐えられるのだろう?」と疑問に思いました。ネットで調べてみたらすぐにデータが得られました。次に示す1983年公表の横浜市公害研究所の論文をごらんください。http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/mamoru/kenkyu/shiryo/pub/pub0054/pdf/pub005411.pdf#search='%E3%82%B3%E3%82%A4+%E5%A1%A9%E5%88%86'
 この論文から塩分濃度1.45%ではコイは二日も生きられないこと、1.23%では徐々に衰弱して一か月後には死んでしまうことが判ります。
 次の項目で示しますが、昨年秋の湖山池の塩分濃度はコイが生息できる値を超えていました。フナの耐塩性に関する論文はまだ未確認ですが、コイもフナも同じような場所に生息しているので、同程度の塩分耐性でないかと推測します。
 貝類等については、甲殻類のヨーロッパフジツボが異常に増えています。これは欧州からやって来た外来種で、この冬の時点では湖山池全域と賀露町の河口までの湖山川全流域の岸辺をこの貝がびっしりと覆っています。私は1954年に湖山町に生まれ、以来大部分の期間をこの周辺をウロウロしながら今まで生き延びてきた来た人間ですが、こんな奇妙な貝を見るのはこの冬が初めてです。鳥取に居ながらにしてこんな気持ちの悪い欧州産の生物に出会えるのも、この塩水化事業のおかげかもしれません。

 冬の湖山池と言えばワカサギ(鳥取の方言ではアマサギ)釣りです。近年は湖山池ではほとんど釣れないようで、釣っている人を見かける場所は、正月前後の湖山川の賀露の水門近くだけになっていました。この正月は湖山川でワカサギ釣りをしている人は皆無でした。
 毎年冬には湖山池の水面で漁協の船がワカサギ漁の網を引いている光景をよく眼にしました。この冬、私は野鳥の観察や調査のために何度となく湖山池に出かけていますが、いまだに漁をしている船を一艘も見かけません。湖山池漁協は「塩分導入しないと魚が取れず生活ができない」と声高に主張し続けていたが、塩分導入したとたんに漁をやめてしまったのはなぜでしょうか?

湖岸にまん延するヨーロッパフジツボ(青島大橋そば2013/02/05)  








 C湖山池の塩分濃度の推移
 以下のサイトで湖山池の塩分濃度の推移を確認することができます。この塩分導入事業は鳥取県と鳥取市が費用を折半して実施しているはずだが、なぜか塩分濃度は市のHPにしか公開されていません。 http://www.city.tottori.lg.jp/www/contents/1336521922711/activesqr/common/other/51104ea4002.pdf
このデータは、順序としては鳥取市HP中の下のサイトから入ることになっていますが、(参考)と表示されています。どうやらあまり見て欲しくないデータのようです。 http://www.city.tottori.lg.jp/www/contents/1336521922711/index.html
去年の八月末にこのサイトを見た時には、水門の操作云々については何の記載もありませんでした。あまりにも塩分濃度が高くなったので、あわてて水門を操作することにしたようです(いつから水門操作を始めたかは、このサイトからは何も読み取れない)。

 このグラフに記載されている塩化物イオン濃度と、我々がふだん感覚として持っている水溶液の塩分濃度との関係は次のようになる。 例としては、海水の平均的な塩分濃度は3.4%だが、これを塩化物イオン濃度で表すと18,980mg/Lに相当する。
(参考サイト ウィキペディア  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E6%B0%B4)

上記の鳥取市のグラフで公表されている湖山池塩分濃度推移のデータ(青島大橋付近)を、上のサイトを参考として塩分濃度に換算すると、次のようになります。
   日時     塩化物イオン濃度(mg/L)    塩分濃度(%)
 2012/08/25      約6200              1.11
 2012/11/13      約7300              1.31

 2012/11/13前後に湖山池の塩分濃度は上記の最高値を記録した。この値は海水の平均塩分濃度の約4割に相当し、コイなどの淡水魚が長時間生き続けられる環境では到底ないことを示している。おそらくこの昨年夏から秋にかけての時期に、従来湖山池に生息していた淡水性の魚や貝は高塩分のために死滅してしまったか大幅に数を減らしているものとのと思われます。

 一方、平成24年度の鳥取県当初予算には、湖山池の塩分濃度の目標値は東郷湖並みとし最大で3,200ppmを目指すと書いてある。
(参考サイト http://db.pref.tottori.jp/yosan/24Yosan_Koukai.nsf/0866da31d153d9d9492574810035b068/0646de0683130bde4925799d003d6186?OpenDocument)
 昨年の実際の計測データの最大値1.31%は、ppm単位に換算すれば13,100ppmとなる。実に当初の目標最大値の四倍を超える値である。
 この目標値というのも実にいいかげんな数字のようで、県の資料ごとに書いてある数値が異なっている。もともと、当初から塩分濃度をコントロールするつもりは全くなかったようである。その証拠に塩分濃度が上昇し続けた去年の春から夏にかけて、カラスガイの絶滅を心配した鳥大の鶴崎先生の県に対する水門閉鎖の再三の申し入れをまったく無視し、水門あけっぱなしの状態を続けていたそうである。
 わざわざ億を超える県費をつぎ込んで、湖山池の多様な生物種をほぼ絶滅に追いやっている。これが「環境立県」を標榜する鳥取県の恥ずかしい現状なのです。

 D石ガマ漁
 2/1付けの地元紙、N本海新聞によると、この冬、約三百年続いている伝統の石ガマ漁を中止することになったとのことです。記事の内容だが、地元の人の話としては、「石に付着したフジツボが漁の邪魔をするうんぬん・・」とのこと。これは表向きの理由であって、実態はフナやコイの数が激減したために漁を取りやめたものと思われます。回遊性の魚であるセイゴやボラは、いくら寒くなっても石ガマの中に入ってはこないのだろう。湖山池の生物だけではなく石ガマ漁までもが絶滅危惧種となってしまった。

 2010年に認定になった山陰海岸ジオパークには湖山池も含まれている。ジオパーク認定のためには、さぞたくさんの税金を使ったのだろう。、認可が決定した時には知事以下の県職員一同が大騒ぎして喜んでいたことを思い出す。
 湖山池の環境が現在のようにメチャクチャな状態では、四年ごとに行われるジオパークの再認定に合格するかどうか実にあやしいものがある。ジオパークの認定基準を調べてみると、「過去から受け継いできた自然環境や文化遺産の保全、持続可能な経済の維持、等々」とある。石ガマ漁こそこの文化遺産そのものである。現在の塩水化事業は補助金・補償金まみれであり、将来的に持続可能な漁業ができるかどうかもまったくわからない。実に持続不可能な経済に足を突っ込んでしまっている。県の始めた目的不明かつ不透明な事業によって、せっかくのジオパークを自らの手で潰そうとしているのである。


                                   ・石ガマ漁紹介の看板。この看板も書き換えるのか。(青島大橋そば2013/02/05)

 私は湖山池が汽水化されると聞いて、一年前には「これでまたテナガエビやワカサギがたくさん取れるようになるな。」と心底期待していた。私が小学生であった昭和三十年代、毎年六月になると私たち湖山小学校の生徒は竹を切って作った手製の釣竿を担ぎバケツを持って、歩いて湖山池の岸辺までエビ釣り遠足に出かけた。帰りにはテナガエビで一杯になったバケツが重くて、途中何度も休みながら家まで持って帰ったことを覚えている。
 実際に事業が始まってみると、テナガエビやワカサギが生息可能な塩分濃度をはるかに越えてしまい、彼らは数を増やすどころかどこかに消えてしまったようだ。なんでこんなことになったのだろうか。
 県や市の担当者だけを責めてみてもこの問題は解決しないのだろう。こんなデタラメな事業内容を担当者レベルで計画するはずもない。多分、政治的な圧力がこの事業を奇怪にねじ曲げてしまったのだろう。担当の方には、この事業が決定された経緯を詳しく公開してもらいたいものである。この事業には不透明な部分が実に多すぎる。
 ともかく、一刻も早く塩分濃度を下げて、私たちが子供時代に慣れ親しんでいた昔の湖山池の生き物を呼び戻してもらいたい。それこそが私たちが次の世代に残せる最良の贈り物であると思う。

 E「これからの湖山池の姿を考えるフォーラム」開催のお知らせ
 ここまで長々と読んでいただいた方には深く感謝申し上げます。この塩水化問題に関するフォーラムが3月30日に鳥取市内で開催されます。各分野の生物専門家の見た湖山池の環境の現状に関する報告が予定されています。主催はNPO「鳥取環境市民会議」、当支部も後援しています。
 詳しい内容は、「これからの湖山池の姿を考えるフォーラム」をごらんください。多数のご参加をお待ちしています。
(by 管理人)