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・2013年5月末発生のコイ・フナの大量死の状況('13/06/20)
 
 五月末にまたコイ・フナの大量死が発生、今回は昨年春の塩分導入開始以来三回目の発生であり過去最悪の規模となった。
 2013/06/18夕方の時点で、当日のNHKニュース鳥取版によれば約7tonの死骸を回収したとのこと。
 以下、湖山池各地の写真を掲載する。6月上旬は湖山池の全域に魚の死骸が散乱している状態であった。池の岸辺に立つと、池から吹いてくる風に腐敗臭が混じっていた。場所によっては悪臭で頭痛がするほどであった。

       
 
 2013/05/29 福井川の無数のコイ・フナ     2013/05/29福井川 しかし川はコンクリート    2013/06/04 長柄川 県道橋より上流側
 
池の塩から逃げ産卵のために集まっている    に覆われ卵を産み付ける草は岸辺に全くない  無数のフナの死骸が浮いている。
          
 
  2013/06/04 長柄川河口            2013/06/04 福井展望台               2013/06/04 福井川河口 フナの死骸   
   周囲は魚の腐臭に満ちている。        一枚の写真の中に魚の死骸が5体                                
    
       
 
 2013/06/11北岸クラーク高校横の水路     2013/06/15西桂見公園 コイとフナの死骸   2013/06/15青島大橋 ここにもコイの死骸
  全長80cmはある立派なコイが死んでいる。   このコイも体長1m近い。池の主と言っていい。  
                            
       
  2013/06/15 鳥大付属小前のコイの死骸   2013/06/15湖山池に流れ込む長柄川河口    2013/06/15 同じく長柄川河口
                              無数のフナの死骸。                  いったい、誰が彼らを殺したのか!
 

 6/18夕方のNHK鳥取版ニュースによれば、県は大量死の原因は今年の水不足による河川の渇水であり、そのために産卵で遡上したコイやフナが死んだとしているが、真の死因は県と市が昨年春に開始した塩分導入事業によって池が非常な高塩分になったためと推定される。この事業が始まった2012年3月以降で過去三回発生したフナの大量死に関するデータを以下に示す。

フナ大量死  第一回  第二回  第三回 
発生年月日  2012.4月下旬  2012.8月下旬  2013.5月末 
大量死発生時の青島大橋直下の表層塩分濃度(県測定値による)  海水の13%
(海水の塩分濃度を100%とした時の計算値)
海水の32% 海水の39%
現象詳細  湖山池全体でフナが大量死。  湖山池全体と湖山川でフナが大量死。 湖山池全体でコイ・フナが大量死。特に長柄川、福井川で大発生。 
県広報内容
及び報道機関対応 
5/2の県広報に掲載。病原菌による運動性エロモナス症ではないと判定した。原因は不明としている。 
5/3に日本海新聞が小さい記事を掲載している。
この大量死を県は全く情報提供せず。新聞報道も全く無し。
ただし、県の内部資料がH25年度第一回湖山池会議で出てきた。それによれば、細菌は検出されず原因は不明としている。また、死骸の回収作業をしていたこともこの資料で初めて判明。
5/31の県広報では死骸から運動性エロモナス菌が検出されたと記載。また、酸欠により死んだ可能性もあると記載。
新聞報道は数件あるが、ほとんどは県広報のコピー。ごく一部に高塩分が原因ではないかとの記載がある。詳細は本ペーシ下の゙(4)報道記事を参照のこと。 
死魚回収量   770kg  2280kg  約7000kg
(6/17のNHK報道による)
参考資料   5/2県広報  H25年第一回湖山池会議資料 
  5/29県広報   5/31県広報 

 ・「魚の死因について」
 湖山池関係のページの下の方にある、(5)記事・投稿 「湖山池塩水化事業による湖山池生態系の変化の現状」の中でも引用しているが、横浜市公害研究所の論文(PDF)によると、海水に対して35%の塩分濃度の塩水に入れられたコイは徐々に衰弱して30日後には体重は投入前に比べて二割も減少し、やせ衰えてしまう。海水対比で塩分28%の場合は投入後に体重がかなり減少し、35日たっても回復せず投入前の体重の5%減となる。
 ちなみに、海水対比42%の塩水に入れられたコイは一日目で10匹中3匹が死亡、残ったコイも横転して瀕死状態となるか狂ったように泳ぎ回る状態となるとのこと。文献中に明記はされていないが数日中に全て死亡したようである。
 これらの実験条件は、ちょうど昨年夏の二回目及び今回の三回目の大量死での塩分濃度に符合している。コイはフナよりも塩分に対して強い傾向があるようだが、そのコイも海水対比約四割の塩分には耐えられず今回大量に死んだものと推定される。考えてみれば海水の半分に近い塩分の中では、淡水や低塩分の汽水域を生息場所とするコイやフナのうちの多くが生きられなくなるのは当たり前のことであろう。それを県は、運動性エロモナス症という病原菌による病気のせいにして片付けてしまおうとしている。
 この病気の原因となる病原菌は常に水中に存在しており、健康な魚がこの菌が原因で死ぬことはない。詳細は例えば、「運動性エロモナス症」のサイトを参照されたい。ここには、「これらの細菌は通常は強い病原性を持たないが、感染を受ける魚体に外傷や体力の低下など、何らかの悪条件があると、感染し発病する。・・・」と記載されている。
 高塩分によって体重を二割も減らしたコイ。人間で言えば体重60kgの人が48kgまでやせ衰えたようなものであり、ここまで体力が低下すればどんな病気にかかっても不思議ではない。高齢の人が食事ができなくなって抵抗力を失い、最後は肺炎で死ぬようなものである。直接の最終的死因は肺炎だが、それに至るまでの過程の中に根本的な死因がある。県の主張する運動性エロモナスなどの病気が主因とする説は、最終的死因について述べているだけであって、塩分という環境の変化が魚に及ぼす影響には全く触れていない。塩分を操作するのは県と市の責任範囲なので、自らそれを原因として認めることは立場上できないというだけのことだろう・・。
 また、県は広報の中で川の中で産卵のため魚が密集したことによる酸素不足が死因かもしれないと述べている。しかし、コイやフナの死骸は上の写真に示すように池の全域で認められた。また、湖山のアメダスによれば、5/29から6/14の間の合計降水量はわずか3mmである。この間、川の流れもほとんどなく、川で死んだ魚が流れに乗って池の各地に漂着したとは認めがたい。湖山池は春から夏にかけての日中、冷たい海からの北風が通常は卓越しており、池の上の浮遊物のほとんどは南岸に吹き寄せられる。北岸にも少数ながら死骸があることは、その魚がその付近で死んだことを示している。

 なお、昨年春の第一回の大量死は塩分濃度がまだ海水対比で13%と低い段階で発生している。しかし、湖山池の魚たちは過去四百年間、最大でも塩分濃度が海水対比で5%であった環境に適応して生きてきた。その塩分濃度が一か月の間にいきなり従来の2.5倍に急上昇したのである。この激変に適応できなかった抵抗力の低いフナが死ぬ可能性は十分に考えられる。
 ちなみに、この昨年4月末の大量死は4/26頃の塩分急上昇の直後に発生している(H25年第一回湖山池会議資料のpage3を参照のこと)。
この直前の4/22と4/26には、湖山アメダスの記録では最大瞬間風速25m/sec以上の南からの暴風が吹いている。風で池の水の垂直撹拌が生じて底層の塩分が表層まで拡散したものと推測される。この現象は昨年からの塩分データによれば湖山池ではたびたび発生しており、南北を問わず強風が吹くたびに池の表層の塩分濃度が急上昇している。
 今回の大量死も5/27頃からの塩分急上昇の直後から始まっているが、ちょうど5/27から5/28にかけて湖山アメダスは最大瞬間風速25m/sec前後の南からの暴風を記録している。青島大橋付近の表層は池の中では塩分濃度が低い場所であり、池の底層はほとんど海水に近い塩分濃度であると思われる。昨年からの塩分導入によって比重の重い海水が底層に侵入して表層の低塩分の水との比重差が拡大、湖水の垂直混合が非常に起こりにくくなっている。この状態では、夏季に表層で大量に発生した有機物はいったん酸素の入らない底層に沈むと、分解されないままそこに残留していわゆるヘドロとなる。昨年から海水を導入した結果、以前よりも速い速度で湖底にヘドロが蓄積されることは十分に予想されることである。
 池に強風が吹くたびに底層の塩分とヘドロと無酸素水が表層に巻き上がることだろう。特に水温が高温である夏から秋にかけてこの現象が発生した場合、それに続いて表層のプランクトンの爆発的な発生、無酸素領域の拡大、大量の表層生物の死滅等が起こることが懸念される。

 実際、池の水質指標は昨年秋以降、塩分導入実施以前よりも悪化していることは明らかである。このページの下にある、(3)関連資料のB「平成24年度以降の湖山池水質データ推移」の内容を見ていただきたい。このデータは県測定のデータをグラフにしただけのものである。
 CODは今年の二月以降は過去五年間の最大値にほぼ等しいかそれをはるかに超える値、全窒素は去年の十二月以降は過去五年間の最大値をほぼ毎月連続してオーバー、全リンは昨年の十月以降は過去五年間の最大値にほぼ等しいかそれを超える値である。この事業の実施によって池の水質は改善するどころか、反対に急速に悪化、富栄養化が進んでいることが読み取れる。

・川で死んだ魚が今回なぜ多かったのか?
 今回は特に池に流入する川の河口付近で魚が大量に死んだ。この五月末から六月初めにかけての梅雨入り直前の時期には、コイやフナは岸辺の水草に産卵する習性がある。池のそばに水田の多かった昔は、水田までコイやフナが遡上して産卵していた。水田の少なくなった最近では、この時期に池下流の湖山川や池の中で岸辺にコイやフナが群がって産卵する風景がこの時期によく見られたものである。
 しかし、昨年からの塩分導入によってこの状況が激変した。今年の池の塩分濃度は産卵をするどころか、自身の体を衰弱させるレベルにまで上昇していた。高塩分によって池の浅場のヨシなどの抽水植物も枯れてしまった。コイやフナたちは、自分の身を守るため、かつ安全な産卵場所を求めて流入河川に殺到したのだろう。
 福井川の河口から200mほど上流では、膨大な数のコイやフナたちがが背びれを空中にさらしながらさかんに浅い川底にむかって腹部をこすり付けていた。あきらかな産卵行動である。こんな場所に産卵しても卵は流されて高塩分の池に入り、孵化することなく死んでしまうだけなのだろうが・・。コンクリート三面張りの川では、魚が産卵するための水草さえも生えていないのである。これが「環境立県鳥取県」の実像である。
 川で死んだ魚が多かったのは、元々、川に入る以前に衰弱している魚が多かったこともあるのだろう。今回ほどではないが、この冬から春にかけて池のあちこちで死んだフナが打ち上げられているのを確認していた。正直言って、今回川に集まっている魚たちを見て、「あの昨年夏から秋にかけての高塩分の中でよくこんなに生き残っていたものだ!」と驚いたくらいである。
 県は死因は川の水の酸素濃度が低かったためらしいとも言っているが、コイは浅い泥水の中でも生きられ、水のない空気中でも数時間は生きられるような酸素不足に強い魚である。県の説明には説得力が欠けている。今回川に入れなかった魚は岸辺に逃げてその場で死んだ、川に逃げ込めた魚たちもその多くは衰弱して死んでしまった。これが実態だろう。川に集まっていた生き残った魚は、フナでは30cm以上、コイでは1m近いような非常に成熟した魚が大半であった。小さな抵抗力の無い魚たちは去年の段階で大半が死んでしまったのだろう。県無形文化財の石ガマ漁だが、対象とする魚がほとんど死滅してしまったので、この冬も実施できないことだけは確実に予言できる。

 この塩分導入事業の結果、今年のフナやコイの繁殖はほぼゼロ。カラスガイ等の貝類、トンボなどの昆虫類、淡水・汽水性の魚などの多種多様な湖山池の生物を自治体自らが絶滅させてしまった。世界的に先進国では常識である生物多様性の保全に全く逆行する政策を、こともあろうに自分の住んでいる県がうわべだけの環境浄化の名の元に平気で実施している。悪夢のような現実にただ驚くばかりである。
(2013/06/19 by 管理人)