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湖山池福井の大名ハス群落絶滅の物語 (2013/10/16)

 
@ 湖山池の湖岸の奇妙な池

 湖山池の南西部の湖畔に福井と言う小さな集落があります。集落の南側の田んぼに沿って福井川という小さな川が流れており、湖山池にわずかな水量の淡水を注いでいます。この河口のそばには小さな公園があり、その公園の中には、これもまた小さな人工池があります。この池、良く見てみるとなんだか変なのです。

    
 人工池のそばに正体不明の1m四方ほどの小さな箱がある。('13/08/06)  左側は人工池、右側は湖山池に直結した水路。人工池の水位は
                                               湖山池よりも5cmほど高い。 ('13/08/06)
    
 
 近くの電柱の下にはこんなものが設置してあった。('13/08/06)      時々、箱の中から「ウィーン」と音がする。すると池に向かって水が
                                              塩ビのパイプから少しずつ流れ込み始める。('13/09/29)

 そう、この小さな箱の中にはポンプが入っているのです。そして、この人工池のまわりには説明というものが何ひとつありません。何のためにこんな仕掛けがしてあるのでしょう?その答えは、鳥取市の公式ウェブサイトの中にありました。  http://www.city.tottori.lg.jp/www/contents/1364199721985/
 このサイトには次のような文章が載っています。
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 「湖山池公園でハスの移植を行いました!」
 

 「湖山池汽水化に伴い、福井地区の湖山池公園(休養ゾーン)にあるハス観賞池のハスを移転していましたが、この度ハス観賞池の淡水化工事が完了し、平成25年4月9日(火)に同池へのハスの移植を行いました。移植を行ったハスは、大名ハスが8株、大賀ハスが35株です。またハスのほか、水生植物のコウホネ(鳥取県の準絶滅危惧種に指定)の苗を3株程度、植付を行いました。

 順調に生育すれば、5、6月ごろには葉が伸び、夏にはハスの花が観賞できるのではないかと思います。今後は毎年株分けを行いながら、観賞池全体にハスを増やしていく計画としています。

 当公園へお越しの際は、ぜひこの美しいハスの景色を楽しんでいただければと思います。」

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 どうやら、2012年(平成24年)の春に始まった湖山池への塩分導入事業で、それまで湖山池に自生していた大名ハスやコウホネを絶滅から救うために、わざわざ淡水池を作って移植したようです。この淡水の水源は、近くで確保した地下水を引いているらしい。
 ただし、ここで大賀ハス35株を移植と書いてあるが、ハスの専門家の鑑定結果によれば、この池に植えたのは大賀ハスではなく紅蓮(詳しくは浄台蓮)という品種であるとのこと。

 この事業にどれだけ税金を使ったのかが気になったので、調べてみました。下の資料がその答えです。
   「鳥取市平成24年度6月補正予算内訳(ハス池関連のみを抜粋)

 この淡水池の整備と鳥大実習用水田ため池の整備のために、鳥取市は合計でなんと二千百万円もの予算を計上していました(最終決算額は未調査)。このハス池は元々以前からあって湖山池と直結していたものであり、この補正予算の一部を使って、地下水の確保・ポンプの設置・池の水位かさあげなどを行ったものと思われます。このハス池だけに投入した費用がいくらなのかは、この資料だけではよくわかりません。
 ずいぶん税金を使ったものですが、この塩分導入事業がなければ、この補正予算の約二千万円もの費用は当然、最初から不要だったはずです。
 ただし、この塩分導入事業に要する費用は当初の予算見積だけで二十数億円とされているので (2010/11月実施の鳥取県・鳥取市の市民アンケート内容に記載)、行政側としては、事業全体から見たらたいした金額ではないと思っているのでしょう。

 さて、この淡水池を作ったことでハスはちゃんと保護されたのでしょうか。移植後、約半年間の変化を写真で示します。

     
  紅蓮の花が数株咲いた。大名ハスは葉も出ず。     高潮で塩水が一度入ったとのことで枯れてしまった。   左の写真の一部を拡大。
                    ('13/08/06)         その後淡水に戻ったので少し新葉がでた。('13/09/26)  実はついているが貧弱。

 移植した大名ハスは今年は葉さえも出なかったが、専門家の見解によれば、この状態では来年以降も発芽することはないとのことです。結局、湖山池の大名ハスはすでに絶滅したと言っていいでしょう。やっとのことで花をつけた紅蓮も生育状態は貧弱であり、市の公式サイトの文章とはうらはらに、とても鑑賞の対象としてふさわしい状態ではありません。なお、コウホネがどうなったのかは、筆者は確認できていません。

 A大名ハスとはどのようなハスなのか

 ところで、大名ハスとはどのようなハスなのでしょうか。筆者は名前だけは聞いていましたが、不勉強にしてその詳細を良く知りませんでした。このたび、ハスの愛好家の方のお話を聞く機会があり、ようやくある程度の知識を得ることができました。また、福井に自生していた大名ハスの群落が日本国内でたいへん希少な存在であったことも知りました。以下、概要を紹介します。なお、以下、この節に示す写真の多くは愛好家の方から提供していただいたものを掲載しています。

 まず、大名ハスとはどんな花か?この福井の公園は鳥取市の管理している「湖山池公園」の一部ですが、その「湖山池公園」の指定管理業者のサイト http://www.koyamaike.jp/rest/ に載っている文章をそのまま示します。

 「湖山池は日本国内でも珍しい、大名ハスの自生地です。8月初旬から9月初旬にかけて白い花弁の周囲のみに斑状の紅紫色が特徴的な花が咲き誇り、ハスの展望台からは、美しい蓮池をご覧いただけます。花径が30cmにもなる大輪の花はなんとも見事です。」
 (自生地も湖畔の栽培地も消滅している現在、まだ存在しているとの誤解を招くような紹介文をいまだに掲載していることは問題でしょう・・・。


 さて、一昨年まで福井川の河口付近に自生していた大名ハス群落の写真をご覧いただきましょう。

    
  白い花弁のふちに紅の斑点、実に見事な花。('08/08/28)          ハス群落の中に舟を浮かべ、しばし至福のひと時。('08/08/27)
                                               人物と比較して花も葉も大きいことに驚きます。

 この湖山池福井の大名ハスの群落は、その規模の大きさで国内に他に類例のないものであったそうです。近くでは岡山市の後楽園でも園内の池で大名ハスが栽培されているが、その規模は湖山池に比べればはるかに小さい。他にも国内各地で大名ハスが栽培されているが、ほとんどは寺社の境内の小さな池に植栽されている程度で極めて小規模とのこと。また、人手によらず自生している大名ハスの群落としては、湖山池福井がほぼ国内唯一の自生地であったとのことです。ハスの専門家によれば、福井の群落は、「天然記念物に匹敵する」ほど貴重なものだったそうです。

 国内にはハスの研究者・愛好者の集まる場として、「蓮文化研究会」と「京都花蓮研究会」という二つの団体があります。近年、福井の群落の素晴らしさがこれらの団体の会員に広く知られるようになり、最近は関西地区からを主に多くの会員が毎年夏には湖山池を訪れて、福井の大名ハスを鑑賞することが恒例になっていたとのことです。

 さらに、、この福井の群落は日本国内だけではなく国外でもその存在が知られるようになりつつあったそうです。今年の夏にハス栽培の本場の中国で一冊の写真集が出版されました。題して、「出水芙蓉図」。著者の王其超氏は中国蓮花協会の会長であり、ハス栽培に関する中国での最高の権威です(ハスと言えば中国の花と言ってよいので、つまりは世界的な第一人者)。
 この写真集は全291ページの大著ですが、その中に福井の大名ハスの群落が写真付きで紹介されています。掲載された写真を下の左側に示します。下の右側はこの写真集の表紙です。中国にも大名ハスに似た品種はあるそうですが、完全に同じものはないとのこと。つまり、この品種は日本で独自に発展した日本固有の栽培種と言ってよいでしょう。

 「この写真を送った半年後には、大名ハスは全滅してしまいました。悲しい! 残念! 恥ずかしい!」とは、この写真を撮影された方の想いです。国際的に有名な観光スポットになる可能性も考えられたのに、何とももったいない話です。
 
        
         湖山池福井の大名ハス −最後の年の群落風景−  ('11/08/27)             左の写真を掲載した写真集
                                                              (2013年7月出版 中国林業出版社)

 比較のために同じ場所の今年の様子を左に示します。沖合に高塩分に耐えて生き延びているヨシがわずかにあるだけで、ハス群落のあった場所は何も無い水面に変わってしまいました。
 ちなみに、ヨシ原ではオオヨシキリやカイツブリなどの野鳥が巣を作るのが普通ですが、この福井に残ったヨシ原では、それまで毎年夏に確認していたオオヨシキリが今年はやって来ませんでした。ヨシは残ったものの、高塩分になったためにエサの水中で幼年期を過ごす昆虫の数が激減し、この場所では子育てできなくなったためではないかと推測します。この塩分導入事業によって、湖山池の生態系は至る所で激変してしまったのです。      

   大名ハス群落のあった場所、今はむなしい水面。 ('13/10/12)

 B湖山池の大名ハスの歴史

 この大名ハスの群落はいつごろから湖山池に自生していたものなのでしょうか。少なくとも江戸時代末期には湖山池にハスがあったと推測される記述が文献「因伯産物薬効録」(平田眠翁著、万延元年(1860年))に載っているそうです。
 また、鳥取城の内濠には昭和48年までは大名ハスと呼ばれるハスが自生していました。この御濠のハスの由来は江戸時代初期までさかのぼり、鳥取城主である池田家の殿様が同じ池田家の領国であった岡山からハスを持ち込んだとも、全く逆の説として、鳥取から岡山にハスを移したとも言われており、今のところどちらの説が正しいという確証はないとのこと。(「久松山」 清末忠人著、中央出版 1983年 より)

 確かに言えることは、大名ハスは鳥取と岡山を領国としていた池田家との関係が大変深い花であること。そして、湖山池の大名ハス群落は鳥取城の御濠から移植されたものに由来する可能性が高いということです。現在、岡山城址近くの後楽園の「花葉の池」には見事な大名ハスの群落があり、後楽園の名所のひとつとなっています。これは戦災で絶滅してしまった後楽園のハスを復活させるために、鳥取城の御濠から大名ハスを取り寄せて移植したものが増えた結果であるとのことです。(「岡山後楽園」 杉鮫太郎著、日本文教出版 1966年 より)
 なお、福井のハス群落は昭和48年に鳥取城の御濠から移植したハスが増殖したものであると記載している文献がありますが、実態はそうではなくて御濠から移植したハスは群落の中のごく一部であり、大半は元々福井で自生していたハスに由来するそうです。

 さて、一昨年まで福井地区にあった大名ハス群落ですが、元々は福井の東となりにある金沢地区にあったものだそうです。それが昭和の初期頃に(理由は不明ですが)福井地区に移ってきたとのこと。1935年頃は約9haもある広大な群落であったが、2006年当時にはその約四分の一までに減少してしまったとのことです。昭和初期の金沢と福井のハス群落が写っている写真が次のサイトに載っています。
   「昭和初期の湖山池の写真」

 この減少しつつあるハス群落を復活させようと大名ハスの保護活動に熱心に取り組まれたのが、地元福井地区出身の故花房泰正氏です。その活動の様子は「2007年11月の鳥取市報」にも紹介されています。また昨年夏には、長年大名ハスの保護に努めた功績に対して鳥取市長から花房氏に対して感謝状が贈られたとのことです。
 ハスの保護活動を広報で紹介し、かつ顕彰する一方で、そのハスを行政自身が進めた事業によって絶滅させてしまうとは・・・。鳥取市のやっていることは、何とも不可解で理解不能というほかはない。花房氏は昨年亡くなられましたが、もし現在も御存命のままであるとしたら今の湖山池の様子を見て何と言われるでしょうか?さぞかし無念なのではないかと想像してしまいます。

 湖山池の大名ハス群落は絶滅してしまいましたが、そのごく一部は愛好者の手によって大事に保護されています。現在は岩美町にある永明寺というお寺で育てられているそうです。「永明寺公式ブログ−「大名蓮が咲きました」−」
 このハスの子孫がまたいつの日にか湖山池に帰ってきて、福井の大名ハス群落がよみがえることを願わずにはいられません。


 C生物多様性保全に関する鳥取方式

 福井川河口から湖岸の遊歩道に沿って東に400mほど歩いて行くと、ここにも不思議な人工の池がある。湖山池の湖岸の一部を石垣で区切り、中央にはヒメガマらしい植物が十本ほど植えてある。どこかにトンボの産卵のためのビオトープを作ったと聞いていたので、どうやらこれがそれらしい。こんな「保護したフリ」のアリバイ作りでしかない池を作るのにも、我々の税金を何百万円か使ったのだろう。
 この人工池?の面積はたかだか数十mでしかない。湖山池の面積は約7km弱、約十万分の一の面積のちいさな池を作っておいて、「ちゃんとトンボやヒメガマを保護しています。」と言うのは冗談でしかないだろう。

    
  ビオトープ? 7/9に発生した魚の大量死の直後であり、周囲      ヒメガマらしい植物が植えられているが、いかにも貧弱。('13/07/18)
  の芝生の上には魚の死骸や骨が大量に散乱していた。('13/07/18)

     
  同じ場所の秋の様子。塩分に強いヨシだけには、    枯れたヒメガマ。三本だけはなんとか穂が出たが来年はどうなるか。('13/09/29)
  ここは避難所として適していたようだ。('13/09/29)

 このビオトープもどき、良く見ると湖面の波に合わせて石垣の隙間を通して湖山池から塩水が出入りしている。これではトンボの幼虫はとても育たないだろう。もっともこんなことを指摘すると、さらに税金をばらまくための工事の口実にされかねないので、細部の欠陥の指摘はこれくらいにしておく。

 初めに紹介したハスの人工池と、このトンボ・ヒメガマのためのビオトープモドキは、鳥取県と鳥取市の行政の生物多様性保全に関する考え方の本質を如実に示しているとみてよいだろう。「生物多様性保全の鳥取方式」と呼ぶべきかもしれない。その考え方の特徴は次のようにまとめられる。

 (1)行政当局は生物保全のためと称し、いち早く公共工事を実施し保全のための小さなハコモノを作るのが通例である。

 湖山池湖畔で公共工事が乱発されてきたことは、湖山池の周囲が公園でほぼ埋め尽くされていることを見れば一目瞭然だが、ここにこんなに公共工事が集中したのは湖山池の周囲がほとんど市有地・県有地であるためだと思われる。厄介な用地買収をする必要がなく、「公園を作ります」と言えばあえて反対する周辺住民もまずいない。池とその周囲の主な住民は、魚、貝、カエル、昆虫、鳥などの動物や植物だが、彼らには住民票がなく反対する権利もない(最近、アザラシだけにはパフォーマンスで住民票をあたえたが・・)。彼らはこの塩分導入事業が始まる以前からすでに、大量に殺されたり、すみかを奪われ続けてきたのである。
 筆者は、「特に必要でもないのに行政があえてやろうとする公共工事の本質は、政治家が税金を使って公然と行う選挙運動にほかならない」と考えている。鳥取市内では、湖山池周辺ほど公共工事のやりやすい場所は他にはないだろう。
 無駄な公共工事の実例を、芝生の上をカラスが歩いているだけで昼間でも人影を見ない湖山池南岸や西岸の公園に見ることができる。ただし、既に都市化されて周辺住民が多い湖山地区の公園に限れば、利用者はかなり多い。
 湖山池のカラスガイ(鳥取県指定の絶滅危惧種、環境省指定の準絶滅危惧種)はすでに死滅したが、県は「池周辺にはまだ生き残っている」と主張しているらしい。カラスガイがまだ生きていると言い続けるために、行政が上のハスの人工池のような奇妙なハコモノをさらに作ってカラスガイを人工飼育して、将来、全国からの失笑を買わなければよいがと案ずるしだいである。

 (2)生物保全用のハコモノが完成した段階で行政は広報とマスコミを使って、県民と市民に対して、「環境保全のために行政当局はこんなに努力しました、お金も使いました。」とPRする。

 (3)ハコモノが完成し広報を流せば行政の仕事はほぼ終り。あとの結果が公表されることはない。

 完成したハコモノによって実際に対象とする生物が保全されたかどうかについては、行政はほとんど何の関心も示さない。上にあげたハス池やビオトープモドキは実際には生物保全のためには何の役にもたっていないが、別にどうでもいいらしい。そんなことを問題にする県民・市民は今までほとんどいなかったから。また、政治家にとっては、ハコモノを作って自分の関係する業界に税金をバラマクこと自体が目的なので、すでに目的は達している。

 (4)伝統的な地域環境や生物、それらに密接に関係して育まれてきた地域の伝統文化に対する尊重が全然ない。尊重どころか全く無関心。

 江戸期以来の伝統があり観光的にも歴史的にも潜在的な価値が高い大名ハス群落を、その価値を無視していとも簡単に塩分導入事業により絶滅させてしまったことは上に見たとおりである。このほかにも江戸初期からの伝統があり、国内では(おそらく世界的に見ても)他に類例のない漁法である石ガマ漁。この県無形文化財指定の漁法もこの塩分導入事業によって壊滅させてしまった。


 Dこの塩分導入事業はただちに中止すべきである

 現在進行中の塩分導入事業だが、その主な目的は「湖山池でのシジミ養殖のための環境づくり」であることが、しだいに明瞭になってきた。
 そう思う理由を以下に挙げてみよう。

 ・湖山池塩分濃度の管理目標の上限値は海水の約四分の一であり、シジミ繁殖のための最適濃度範囲に設定している。
 ・現在も進行中の池東岸の養鶏場付近での岸辺・浅場の覆砂。
  (昨年末の新聞報道によれば、この事業はヘドロの覆砂による水質改善が目的と説明されていた。ヘドロは池の深い場所にあって浅場にはない。県は工事の実態とは異なる内容で事前の公式説明をしている。)
 ・先月で終了した西岸の福井展望台南側付近での水深1m位の浅場での泥のくみあげ。
  (この事業も上と同じ新聞報道では、水質改善のためのヘドロの浚渫と説明されていた。普通、浅場の泥をヘドロとは言わない。これも工事の実態とは異なる公式説明である。 )
 ・7/9に発生した魚大量死の直後、県は一千万円弱の緊急予算を最優先で組み、シジミ放流場所付近に酸素発生装置を設置したこと。
 ・漁協の関心は放流したシジミの生育度合だけに集中していること。

     
 東岸での護岸工事風景 ('13/06/15)      東岸全てを砂浜にするつもり? ('13/08/16)   水面下も浅い所は全て砂で覆った ('13/08/16)

    
 西岸での工事。ヘドロ浚渫のはずだが、実際には岸近くの泥を吸い上げている。来年はここ   くみ上げた泥を貯留池に排出('13/08/06)
 に砂をまきたいのだろう。('13/08/16)

 上に挙げたこと全てが「シジミ養殖」という言葉に直結している。湖山池で現在進行中の色々な工事や事業は、シジミ養殖という観点から見るとその持つ意味がじつに明瞭になる。
 (シジミ養殖のための必須三条件(塩分濃度、湖底の砂と泥の比率、湖底の酸素濃度)というものがある。 これらについては、詳しくは例えば次のサイトを参照されたい。「シジミ生息に関する環境要因」 
 シジミの成貝は広範囲の塩分濃度下で生息可能であるが、7月から9月の産卵期に水中に放出されるシジミの卵は、その環境がある限定された塩分濃度範囲になければ受精できない。つまりシジミの再生産のためには、夏季の湖沼塩分濃度を一定の範囲に制御しなければならない。その最適濃度は海水の約六分の一とされている。詳細は次のサイトの6べージを参照されたい。「日本水産資源保護協会 「やまとしじみ」」
 2010/11月実施の市民アンケートの結果は、東郷池並みの塩分濃度上限が海水の六分の一であるC案が最も支持されたと県は公表していた。それが2012/1月発表の「湖山池将来ビジョン」では、何の説明もないままに、いつの間にか塩分濃度上限が海水の四分の一にすり替えられていた。これは塩分濃度の管理幅とシジミの再生産条件を再考慮したためではないか?)

 筆者は、湖山池のように流域面積が狭く降雨による水の入れ替わりが緩慢な池では、シジミを安定して養殖し事業化することは非常に困難だろうと予想している。国内で単位面積当たりのシジミ生産量が大きい湖沼は、第一位が島根県の神西湖(じんざいこ)、第二位が茨城県の涸沼(ひぬま)である。これらの池は、いずれも池の貯水量に対して流入する河川の流域面積が著しく広い。つまり少量の降雨でも酸素を豊富に含んだ雨水が大量に池に流入するので、無酸素領域が広がりにくい。これに対して、湖山池が無酸素領域が大きくかつ容易に表層に上がって来やすい池であることは、今年の7/9に発生した魚の大量死で実証されたとおりである。(湖沼別のシジミ漁獲量については、次のサイト(前述のサイトと同じ)の8ページを参照されたい。ただし、H21年時点での漁獲量である。 「日本水産資源保護協会 「やまとしじみ」」

 「(池の貯水量)/(流入河川流域面積)」の値は、大まかに言って池の水が入れ替わるために必要な降水量に比例するとみなしてよいが、東郷池のこの値は湖山池の値の約三分の一である。さらに、前述の神西湖と涸沼の値は湖山池の十分の一以下である。
 つまり、池の水の、たとえば半分が入れ替わるために必要な降水量は、湖山池は東郷池の約三倍は必要ということになる。新鮮な雨水は酸素を豊富に含んでいる。酸素の供給量が不足することは、シジミを含む池に住む全ての動物にとって、酸素不足による大量死のリスクが増加するということを意味している。 また、降水によって池の水が入れ替わると同時に池にたまっていた有機物・栄養分が排出されるので、降水によって酸素が供給されるだけでなく水質も改善される。その点でも、湖山池は降水による浄化がされにくく、栄養分が滞留して水質が悪化しやすい池であると言えるだろう。 (東郷池のシジミの生産量は年々減少しており、その将来が危ぶまれているが、湖山池でのシジミ養殖が、東郷池よりもさらにリスクが大きいことは確実であると言ってよいだろう。)

 要するに、湖山池はその地理的条件の制約から、降水による酸素供給や水質浄化は元々あまり期待できない池なのである。このような池に塩分を導入したことで塩分躍層が出来て水面から水中への酸素の拡散供給も阻害され、水中の酸素不足によって湖底に未分解有機物がたまり続けて水質の悪化を招くことが懸念される。今年の夏に発生したような魚の大量死が来年以降さらに頻発する可能性が高い。
 さらに今後、湖底が無酸素状態のまま大量の有機物が蓄積され続ければ、嫌気性細菌が活動し始めて硫化水素(いわゆるドブ臭)が発生するようになる。こうなるとごくわずかの生物しか生きられない死の池になってしまうのである。
 このままでは、湖山池は将来、鳥取の「カネ食い虫」となってしまうのではないだろうか(現在でもすでにそうだが・・)。

 いままで行政が表面上強調して来た「ヒシ・アオコ対策」は真の事業目的ではなく、実はシジミ欲しさに湖山池に塩分を導入した疑いが極めて強い。その政策決定の過程で地域の伝統文化を考慮することは一顧だにしなかったようである。もちろん池の生物多様性の保全も全く頭になかったことは、あわててハスのための人工淡水池やビオトープモドキを作るなどの昨年からのドタバタ劇と、現在の池の惨状が証明している。
 「シジミ養殖」という経済的な可能性だけに欲目がくらんで、地域の伝統文化や環境への影響を完全に無視したのではないだろうか?

 「県と市はただちにこの塩分導入事業を中止し、湖山池の塩分濃度を事業開始以前のレベルに引き下げるべきである!」

 石ガマ漁や大名ハス群落などの先祖から代々受け継いできた伝統文化と環境を守り次の世代に伝えて行くこと、湖畔のヨシやヒメガマの中でオオヨシキリが歌い、その足元ではカイツブリが巣をつくってヒナを育て、湖底にはカラスガイが住み、水面をトンボが舞い、いろいろな淡水魚や汽水魚が泳ぎ、子どもたちがテナガエビやワカサギを釣れる湖山池を取り戻すこと、それこそが私たちの望むものである。

(by 管理人)